完熟マンゴーの技術を応用してつくる、宮崎県新富町の生ライチ


国産のライチがあることをご存知だろうか。現在、国内に出回っているライチの99%は輸入品だが、わずかながら鹿児島、宮崎などで国産のライチが栽培されている。特に宮崎県新富町ではマンゴーに次ぐ特産品に育てあげようと、今、ライチの生産に力を入れている。最盛期は5月から7月。1年のうち、もぎたての生ライチが美味しく味わえるのはわずかな期間しかない希少価値の高いものだ。

大きいものだと一粒50gを超え、ピンポン玉をひとまわり上回るほどに成長する。赤い色をつけた皮をむくと、中から透き通った白色の肉厚な果肉が現れる。ぶりっと艶やかなその見た目からもみずみずしさが十分に伝わってくるが、噛んだ途端、想像を超えて甘い果汁があふれだす。口の中はエキゾチックな香りで満たされた。「こんなライチ食べたことがない」、新富町のライチはきっとそう思わせてくれるはずだ。糖度は15度以上というが、単に甘いだけでなく、ほのかに感じる優しい苦味や酸味が味わいに輪郭を与え、より官能的な美味しさへ引き上げている。

このライチを育てているのは、新富町で「森緑園」という農園を営む森 哲也氏だ。シーズン真っ只中の6月初旬に農園を訪ねると、ビニールハウス内にびっしりと植えられたライチの木には、丸くて赤い無数のライチがたわわに実っていた。なんとも愛らしい。まるでおとぎ話の中に出てくる森の中に迷い込んだような気持ちになった。我に返ってよく見ると、枝葉が黒い糸で吊るされ、支えられていることに気づいた。聞けば、完熟マンゴーの栽培法をライチにも応用しているのだという。この地域は「太陽のタマゴ」で知られるように、ブランドマンゴーを多く栽培している場所。そのノウハウを活かして、地域を代表するような次なるブランド果実を育てようと取り組んでいるのだ。

生産者の森さんが生ライチを初めて口にしたのは、今から約15年前。町の特産である「シンビジウム」を育て花農家として生計を立てていた父の泰男氏が、農園の一角でライチを育て始めたのがきっかけだったという。その美味しさに驚き、父から農園を引き継いだ後、本格的なライチ生産に乗り出した。幾つもの壁にぶつかりながらも改良を重ね、土地にあう品種を選り分けながら、ようやく収量が確保できるようになったのが今から3年前。販路開拓にも力を入れながら、昨年ようやく黒字化できたという。

農家人生をライチに賭けると決めてから、今年で10年。長い道のりを経て、森氏は今新たなスタートラインに立った。新富町の一般財団法人「こゆ地域づくり推進機構」では、生産者の森氏とともに、ライチの魅力を伝えるイベントを開催しながらサイト上で販売も行っている。LLサイズの50g超の大玉ライチは「楊貴妃ライチ」(8個/10,000円)と名付け、ブランド化にも努めている。また、日本の食をアートする“をテーマに掲げるカフェコムサの一部店舗で、ライチをふんだんに使った「フレッシュライチ」のケーキ・パフェを期間限定で販売するなど、販路は年々広がりを見せている。今後はB級品などを使い、チョコレートなどの加工品を開発するほか、果汁を使って作る化粧品の商品化にも挑戦するという。販路開拓にブランディング、商品開発など、生産者と地域が一体となって「稼げる農業」への歩みを進めている新富町。美味しさを生み出し、紡ぐためには、この二人三脚が必須なのであろう。

(取材=小野 茜)

基本データ

生産者名 森緑園
住所 新富町大字日置3310-2
電話 0983-33-4755
関連リンク 一般財団法人 こゆ地域づくり推進機構
森緑園のハウス内の様子。マンゴーの技術を用い、黒い糸で吊るしながらライチの実が完熟するまで丁寧に育てている。たわわに実る真っ赤なライチと緑のコントラストが美しい。
完熟した大振りなライチの実。写真ではわかりずらいが、かなりの存在感。テーブルのまわりにはライチの甘い香りが漂っている。
1粒50gを超える超大玉は、楊貴妃が愛した高貴な果実という言い伝えに倣って「楊貴妃ライチ」というブランドで売り出している。1粒なんと1000円ほどするものも。
ライチ生産に賭ける森緑園の森さん。これまでのイメージを覆す、みずみずしくてぷりっとした肉厚のライチは、森さんの努力の積み重ねの証。圧倒的なその品質は世界でも勝負できるだろう。